デザインは何のためにあるのか
しばさんが入社するまでの経緯を教えていただけますか?
大学卒業後、印刷会社を経て、その後はずっとデザイナーとしてキャリアを積んできました。広告やファッション、プロダクトなど、いろいろな分野のデザイン事務所で働くなか、自分にとって大きな転機になったのが、2011年の東日本大震災。商業デザインをやっていることにすごく違和感を持ってしまって。
どんな違和感だったんですか。
もともと、きらびやかな広告の世界観に憧れて、デザインの世界に入ったんですが、世の中がすごい騒ぎになって、困っている人がたくさんいる状況で、「これは今やることなのかな」って。「デザインは何のためにあるのか」を考えていくうちに、困っている人や大変な思いをしている人のためにあるんじゃないかと思うようになっていきました。
そんなときに、デザインで社会課題を解決するというミッションのNPOの求人を見つけ、いろいろな社会課題を解決しようとするNPOやNGO、行政のブランディングや広報活動を支援する役割の組織で、7年ほど働いていました。
本当に困っている人や世の中で大変な思いをしている人たち、またそこに課題感を持って活動しながらも糸口がつかめず同じところで停滞している人や組織を、デザインで支援する。「デザインってこのためにあるんだな」という実感を深めていった期間でした。
しばさんの思いとスキルを発揮できる環境だったんですね。
それまでは課題の現場に行くこともほとんどなくて、机の上のみでデザインすることが多かったんですが、現場に行って話を聞いて、社会にある問題や困っている方の現状を突きつけられました。その温度感を感じて、本当に困っている人とリアルで向き合った。そういう人との濃密な関わりの中で感じたリアリティをもとにデザインしないと、そもそもちゃんと解決できないなって思いました。
ただ、ここでの課題も見えてきました。短期的な関わりだと、予算があるときは広報を依頼できるけど、そうじゃないときはできない、それはよくないなって。それぞれの組織の中に伝えることやデザインが分かる人がいることが大切だと思うようになって、それを伝えるための「教育」に取り組むようになっていったんです。
デザインと教育ですか。
その後、NPOを離れて、高校でデザインを教える機会もいただいて。いわゆるレイアウトや形ではなく、その前にある考え方、まず課題があって、それを解決するためにどう設計するのかっていう「本質的課題解決のためのデザイン」というデザイン教育の型を作っていきました。
デザインと教育を主軸でやっていきたいと思い始めた頃に、スマイルバトンがクリエイターを募集しているという記事をたまたま見つけて。デザインで教育分野に関われるならと思い応募しました。
そこでは、同じくプロボノとして参加している現役の先生たちと密なコミュニケーションの機会があって、教育現場の課題や現状のリアルな声を聞くことができました。また「先生の学校」自体が、教育における課題感を明確に持って、そこに対して取り組み続けていて、その熱量というか本質に向かう強さみたいなものを受け取っていきました。
その後、なおさんから「デザイナーとしての雇用を考えている」と言われて。教育のど真ん中の分野で働けるならと、2021年8月にスマイルバトンに入社しました。